大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和32年(オ)325号 判決 1960年3月01日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人中村喜一、同菊地養之輔の上告理由第一点について。

所論の要点は、本件立木は上告人自身の植栽にかかるものであるから、上告人はその所有権を、公示による対抗要件がなくとも、第三者に対抗しうるのであり、同旨の大審院判例(昭和一七年二月二四日民集二一巻一五一頁)も存する。原判決は法律の解釈適用を誤つている、というにある。

案ずるに、原審確定の事案によれば、上告人が訴外大竹から本件山林を買い受け、地盤所有者として本件立木を植栽して後、大竹はこの山林を別に訴外塩田に売り渡して移転登記を得させ、被上告人小松は更に右塩田から買い受けて移転登記を経たというのであつて、上告人はこの山林所有権につき被上告人らに対抗できないのである。ただ本件立木は上告人が権原に基づいて植栽したものであるから、民法二四二条但書を類推すれば、この場合、右塩田・小松らの地盤所有権に対する関係では、本件立木の地盤への附合は遡つて否定せられ、立木は上告人の独立の所有権の客体となりえたわけである。しかしかかる立木所有権の地盤所有権からの分離は、立木が地盤に附合したまま移転する本来の物権変動の効果を立木について制限することになるのであるから、その物権的効果を第三者に対抗するためには、少くとも立木所有権を公示する対抗要件を必要とすると解せられるところ、原審確定の事実によれば、被上告人らの本件山林所有権の取得は地盤の上の立木をその売買の目的から除外してなされたものとは認められず、かつ、被上告人らの山林取得当時には上告人の施した立木の明認方法は既に消滅してしまつていたというのであるから、上告人の本件立木所有権は結局被上告人らに対抗しえないものと言わなければならない。これを立木所有権を留保して地盤所有権のみを移転した場合にたとえ、右と同趣旨の理路をたどる原判決の説明は正当であつて、所論の違法はない。なお、所論引用の大審院判例の事案は、未登記の田地所有権に基づき耕作して得た立稲および束稲の所有権の差押債権者への対抗力に関するものであるが、稲は、植栽から収穫まで僅々数ケ月を出でず、その間耕作者の不断の管理を必要として占有の帰属するところが比較的明らかである点で、成育に数十年を予想し、占有状態も右の意味では通常明白でない山林の立木とは、おのずから事情を異にするものというべく、右判例も必ずしも植栽物の所有権を第三者に対抗するにつき公示方法を要しないとした趣旨ではない、と解されるから、本件の前記判示に抵触するものではない。所論は採用できない。

同第二点について。

原判決の文旨は所論解除の有無を確定したものとは解しえないが、原審はむしろ、この有無を本件事案の結論に影響を及ぼす余地のない事柄と見、あえて確定する必要を認めなかつたものと解される。従つてこの点に原判決の理由不備があると主張する所論は失当であつて、採用できない。

同第三点について。

所論は、原審の事実認定を非難するものであるが、原審認定はその挙示の証拠によつて肯認することができ、経験則違反とは認められない。所論は採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 島 保 裁判官 垂水克己 裁判官 高橋潔 裁判官 石坂修一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例